※本稿は、忠岡博税理士が2009年9月に日本税法学会の関西地区研究会で報告し、税法学562号に収録された判例研究に、加筆したものです。
東京高裁平成20年1月23日判決(平成18年(行コ)第112号、固定資産税・都市計画税賦課処分取消請求控訴事件、LEX/DB,25400332)
本件は、「回向院事件」と呼ばれている。江戸時代から相撲興行と動物供養の寺として知られている東京都墨田区両国の浄土宗寺院・回向院の境内にある宗教施設内に設置された動物の遺骨を安置するためのロッカーとその敷地部分について、課税庁である東京都墨田都税事務所長が、地方税法348条2項3号および同法702条の2第2項により非課税の対象とされる「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」には該当しないとして、固定資産税および都市計画税の賦課処分を行った事件である。回向院がこれを不服として提訴し、本判決はその控訴審判決にあたる。「信教の自由」の視点からではなく、税法の視点から、この判決について考察してみたい。
判決の要旨をまとめると以下のとおりである。裁判所は、以下のような理由により、一審判決を取り消し、Xの請求を認容した。
なお、Yはこの控訴審判決を不服として上告したが、最高裁は、平成20年7月17日にこの上告を受理せず棄却したため、本控訴審判決が確定した。
地方税法348条2項は、固定資産税の非課税の対象を規定し、その3号で「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」を非課税の対象として掲げている。また、宗教法人法3条は、境内建物とは、宗教法人の目的である「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成する(1)」ために必要な宗教法人に固有の建物および工作物をいい、境内地とは、同じく宗教法人の目的のために必要な宗教法人に固有の土地をいうものと規定している(2)。したがって、その境内建物および境内地が地方税法348条2項3号にいう「宗教法人が専らその本来の用に供する境内建物及び境内地」に該当するかどうかは、その境内建物および境内地の使用の実態を社会通念に照らして客観的に判断することとなる。
Xは、江戸時代の開創以来動物の供養を行ってきたこと、Xにおいて動物の供養を行うことが世間一般に広く受け入れられ庶民の信仰の対象となってきたこと、回向堂および供養塔において動物の遺骨の安置をするとともに毎日勤行で動物の供養を行い、月1回あるいは年3回の動物供養の法要を行っていることから見れば、回向堂および供養塔は、本件ロッカー部分のみならず、その敷地部分も含めて全体がXが専ら宗教目的に使用する施設であって、その宗教活動のために欠くことができないものであるということができ、地方税法348条2項3号の「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に該当するものと認められる。
Yは、人に対する供養と動物に対する供養とは社会的評価が大きく異なるとして、回向堂および供養塔は「専らその本来の用に供する」ものといえないと主張するが、Xにおいては、江戸時代の開創以来動物の供養が長い年月にわたって行われてきたものであり、宗教活動が継続され、社会的にも定着して現在に至り、その間、地域住民からも動物供養の寺として厚い信仰の対象とされてきたこと、また、動物を供養するための宗教施設として回向堂および供養塔が建立されてきたことが明らかであり、回向堂および供養塔は、客観的に見て、その宗教性について社会的な認知が得られているということができる。また、Xの使用実態については、寺の案内のしおりの記述や、これらの客観的状況から、特別に強制的な子細な調査をしなくても、客観的に判断することができるものである。
脚注
(1) 宗教法人法2条。
(2) 具体的には、宗教法人法3条に、本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の目的のために供される建物および工作物、またそれらの存する一画の土地が例示列挙されている。
(写真:回向院動物供養塔)